ボストンコンサルティンググループが発表しているサステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果によれば,脱炭素あるいはカーボンニュートラルの認知は80%にも及ぶようです.他方では最近,グリーントランスフォーメーション:GXという単語を目にするようになりました.経済産業省ではグリーントランスフォーメーション推進小委員会が2021年12月16日から開催され,2022年2月時点で3回の会合があったようです.GXとは産業および社会構造の脱炭素化であり新しい概念ではありませんが,脱炭素化へのプロセスを語るには便利な言葉と感じます.
【参考文献】サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果(ボストンコンサルティンググループ 2021/10):https://web-assets.bcg.com/3d/56/1f8fa0014d9aa50e1d7ba42f5361/jp-consumer-survey-on-realization-of-sustainable-society-july2021.pdf
【参考文献】グリーントランスフォーメーション推進小委員会(経済産業省):https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/index.html
様々な企業でGXの推進あるいは検討が進められていますが,多くの場合で経済合理性が見通せず,おかれた立場により千差万別で王道や典型のないなか,投資タイミングやそもそも投資に値するのか判断が難しく,自社のGHG排出量の把握や省エネの推進など,できることの推進に留まっているのではないでしょうか.GXは,地球温暖化対策が動機の源泉ですが,民間企業にはビジネス面でのドライバが必要です.本ページでは,GXのドライバの状況を考察します.
GXのドライバ
①消費者意識
民間企業は,消費者の需要に応じたサービス提供での収益獲得が活動の主たる目的で,消費者の脱炭素志向がGXの成否に影響すると考えられます.BtB,BtCで消費者像は様々ですが,脱炭素が最終消費者の購買動機にならなければ,企業活動は存続困難です.上記したサステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果では,環境価格プレミアムを受容すると回答した割合は20%~30%で,うち,+10%までの価格アップを受容すると回答した割合が40%~60%とのことです.この解釈は様々ですが70%以上は価格重視であり,脱炭素化に未対応の製品が無くならない限り,事業存続は困難と考えられます.消費者意識を変える強い施策が確認できない現段では,電気自動車の運動性能のようなGXと製品価値が親和する事業でない限り,未だGXのドライバになる見通しは無いようです.
②カーボンプライシング
GHG排出量に応じた金銭的取引の仕組み,すなわちカーボンプライシング:CPで企業はGHG排出を財務的に解決可能となり,各国でETS:Emission Trading Systemなどが進んでいます.一方で,行政によるCP,すなわち炭素税は,日本では環境省のカーボンプライシングの活用に関する小委員会があり方を検討しているようですが,例えば,
『CPは中小企業の負担増となる。コロナ禍や原油高といった足下の経済状況も踏まえれば受容できない。』
『CPによって電気料金が上昇すると、カーボンニュートラルに不可欠な電化の推進を阻害する。』
といった必然的ジレンマと向き合っている段階のようで,未だGXのドライバとなる見通しは遠いようです.
【参考文献】カーボンプライシング
【参考文献】中間整理(中央環境審議会地球環境部会 カーボンプライシングの活用に関する小委員会2021/08):https://www.env.go.jp/council/06earth/setchukanseiri.pdf
③規制
GHGに大気汚染ガスのような排出規制が課せられ,製品流通や事業継続の困難が生じれば比較的強いGXのドライバになりえます.単なる規制は経済競争力を低下させますので,各国でのGHG排出規制は限定的です.炭素国境調整措置:CBAMのような,脱炭素未対応製品への輸入関税とセットで考える必要がありますが,現在予定されているCBAM対象は,セメント,鉄・鉄鋼,アルミニウム,肥料,電力と限定的な状況です.一方で公海上では,IMOが進めるEEXI規制をはじめとするGHG排出量規制が予定されていて,海運セクターではGXの強いドライバとなっています.
【参考文献】欧州委員会による炭素国境調整措置の提案について(環境省202107/29):https://www.env.go.jp/council/06earth/17sankou3.pdf
【参考文献】国土交通省のゼロエミッションに向けた取り組み~最近の国際動向と日本の戦略~(国土交通省2021/01):https://www.jasnaoe.or.jp/lecture/pdf/e.210224.01.pdf
以上,GXのドライバの状況を3つ考察しましたが,現状では,1997年の京都議定書後,2015のパリ協定後など,何度か脱炭素の機運が盛り上がった時代と比較して,カーボンニュートラルの見通しが明るくなったようには未だ見えません.
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