カーボンニュートラル社会の解説:Part 2 エネルギ変換/発電

動向

カーボンニュートラル社会の解説:Part 1の続きです.想定されている2050年頃の社会を経済産業省が示しているカーボンニュートラル実現時の産業構造のイメージを用いて解説します.Part 2では,エネルギ変換のうち発電分野に着眼します.

出典 経済産業省,カーボンニュートラルの産業イメージ

【参考文献】カーボンニュートラルの産業イメージ(経済産業省):CN_Panel_B_1224.1 (meti.go.jp)

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エネルギ変換:発電

図の左上方に,電気はすべて脱炭素化し,と記述されていますが,LNG火力発電やバイオマス発電が描写されており,発電の工程でCO2は発生します.LNGなどの化石燃料での発電ではCCS技術での回収および貯蔵が想定され,大規模発電のケースではCO2の地中固定が考えられています.また,CCU (Carbon Capture and Utilization)技術で,CO2を資源活用することも考えられています.CO2の資源活用例は大小様々な規模がありますが,水素を原資とした何らかの手段でのメタン化,すなわちメタネーションが知られています.一方で,バイオマス発電からのCO2は,一部,大気中への排出が許容されます.光合成によるCO2吸収をともなうバイオマス資源を燃料とした発電では,気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)での京都議定書で,CO2を排出しないものとすると決められているためです.これがカーボンニュートラル,CO2排出実質ゼロあるいはネットゼロと呼ばれる所以です.

【参考文献】CCU/メタネーション(IAE):metanation_202003.pdf (iae.or.jp)

【参考文献】バイオマス発電(資源エネルギー庁):バイオマス発電|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー (meti.go.jp)

また,上図の港湾地域近傍に水素およびアンモニア発電が描写されています.これら水素系燃料での発電では,比較的に大規模な発電は火力発電,小規模な発電は燃料電池が想定されており,燃料にカーボンが含まれませんのでカーボンフリーな発電です.なかでも,水素火力および水素燃料電池では,前者はBMW社のHydrogen 7やマツダのRX-8 ハイドロジェンRE,後者はトヨタ自動車のMIRAIなど,乗用車の例がよく知られており,その技術は実用レベルにあります.

【参考文献】水素火力発電(NEDO):高効率な水素発電を支える基盤技術開発に着手 | NEDO

【参考文献】Hydrogen 7(BMW):BMW Hydrogen 7 (bmwgroup.com)

【参考文献】RX-8 ハイドロジェンRE(マツダ):2006_no026.pdf (mazda.com)

【参考文献】MIRAI(トヨタ):トヨタ MIRAI | 乗用車 Part 5 | 自動車技術330選 (jsae.or.jp)

一方で,アンモニア火力は,アンモニアの燃焼速度が遅く,火力発電の主力であるLNG燃料と比較して着火性や保炎性が劣り,安定的な燃焼にはいっそうの技術開発が必要とされています.また,アンモニア燃料電池は,固体酸化物形燃料電池(SOFC)での技術開発が進められていますが,水素燃料電池と比較してまだ開発途上にあるようです.

【参考文献】アンモニアを燃やして発電(JST):アンモニアを燃やして発電|環境エネルギー|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構 (jst.go.jp)

【参考文献】アンモニア燃料(資源エネルギー庁):アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

【参考文献】アンモニア燃料(資源エネルギー庁):アンモニアが“燃料”になる?!(後編)~カーボンフリーのアンモニア火力発電|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

なお,火力発電では,現在使用されている化石燃料と混ぜて燃焼させる,いわゆる混焼技術により,燃焼性や調達性での難易度を下げつつ,CO2排出量の削減を実現する取り組みも検討されています.

【参考文献】平田宏一,市川泰久,水素混焼エンジンの現状と課題,日本マリンエンジニアリング学会誌,Vol 54,No.5 (2019),pp.28-31.:ja (jst.go.jp)

カーボンニュートラル実現時の発電には,原子力発電が想定されています.2020年12月に表明されたグリーン成長戦略の資料1では,14の分野が記述されていますが,#4として原子力産業の課題,対応,工程表が明示されています.このなかで小型モジュール炉(SMR),高温ガス炉,核融合の技術開発を進め,SMRでは2030年以降,高温ガス炉では2040年以降の導入を目指しています.また,人工太陽とも呼ばれている核融合による発電では,ITER計画で2030年代半ば頃に核融合運転が予定されていまが,発電への導入は2050年以降と考えられています.

【参考文献】2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(内閣官房):siryou1.pdf (cas.go.jp)

【参考文献】小型モジュール炉(資源エネルギー庁):原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

【参考文献】高温ガス炉(日本原子力研究開発機構):高温ガス炉とは | 資料 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 高温ガス炉研究開発センター (jaea.go.jp)

【参考文献】核融合研究(文部科学省):核融合について:文部科学省 (mext.go.jp)

【参考文献】ITER計画(量子科学技術研究開発機構):核融合実験炉ITER日本国内機関・QST | ITERって何?

Part 3に続く

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