カーボンフリー/カーボンニュートラル燃料のサプライチェーン

動向

資源エネルギー庁によれば,2021年2月時点での我が国の水素ステーション数は137か所で,整備中は25か所とのことです.また,再⽣可能エネルギー・⽔素等関係閣僚会議が発表した水素基本戦略では,2025年度までに320か所の整備を目標としています.しかしながら,現在のサービスステーション数およそ3万か所と比較すれば,オンロードモビリティでも水素へのアクセスは限定的で,オフロードモビリティではトラックに積載して水素ステーションにアクセスするか,何らかの形で水素を調達する必要があります.一方,我が国のバイオ燃料へのアクセスでは,バイオ燃料を給油できるサービスステーションは整備されていませんので,オンロード,オフロードにかかわらず何らかの形での調達が必要です.本ページでは,需要家までのエネルギサプライチェーンの姿を考察します.

【参考文献】FCV・水素ステーション事業の現状について(資源エネルギー庁):https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/024_01_00.pdf

【参考文献】水素基本戦略(再⽣可能エネルギー・⽔素等関係閣僚会議):https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/pdf/hydrogen_basic_strategy.pdf

各国が野心的に推進している水素へのアクセスポイントには,オンサイト式水素ステーションとオフサイト式水素ステーションがあります.オンサイト式は水素製造をともなう水素ステーション,オフサイトは他所で製造された水素を運搬貯蔵する水素ステーションです.いずれも需要家は,水素ステーションに出向く必要があります.また,次の図ような車両形式の移動式水素ステーションがあります.法で規定された場所での水素供給に限定されますが,比較的郊外での水素へのアクセスを可能にしています.ただ,やはり需要家は出向く必要があります.

三重トヨタおよびENEOSの移動式水素ステーションの例

一方で,水素ステーションに出向くことができない定置施設やオフロードモビリティへのデリバリーを想定して,次の図のような簡易型の水素充填車が実証されています.この充填車の水素貯蔵量は,トヨタMIRAIの使用可能水素量5.6kg(5.6 / 0.0898 = 62.36 Nm3)と比較すれば,4.3台分です.

神奈川県,横浜市,川崎市,岩谷産業,東芝,トヨタ自動車による水素サプライチェーンモデルの実証プロジェクトでの簡易水素充填車

【参考文献】風力発電により製造したCO2フリー水素を燃料電池フォークリフトへ供給する実証を開始(岩谷産業ニュースリリース):http://www.iwatani.co.jp/jpn/newsrelease/detail_1263.html

【参考文献】 MIRAIと水素のFAQ(トヨタ自動車):https://toyota.jp/mirai/station/faq/index.html

現在は法的に水素充填がどこでもできるわけではありませんが,次の図のような,ロードサービスを想定したスーツケース大の簡易型ディスペンサが検討されているようで,様々な需要家が便利に水素を調達できるサプライチェーンの整備が予見されます.

ヤマト・H2Energy Japan 株式会社ホームページ

バイオ燃料ですが,2015年のパリ協定頃に実証事業が盛んになったバイオディーゼル燃料:BDFが,常温液体であることや,真発熱量をはじめとする燃料性状面から,現在軽油を燃料としているパワーソースの脱炭素化には現実的な手段と考えられています.FAMEと呼ばれる第1世代のBDFでは酸化による変質が問題視されていましたが,抗酸化処理やHVOと呼ばれる水素化処理を施したBDFにより,軽油に近い性状になっています.

課題は生産面で,森林伐採や食料との競合などに加え,アンフェアな労働環境や児童就労が社会問題化し,バイオ燃料普及の障害になりました.そもそも,森林伐採などでの農地開墾をともなう間接的土地利用変化:ILUCでのバイオ燃料ではGHG削減にならないと欧州議会から示されています.2019年3月には,バイオ燃料の持続可能性評価がECから発表され,適切なバイオ燃料製造が促されています.

【参考文献】The impact of biofuels on transport and the environment, and their connection with agricultural development in Europe (European Parliament)

【参考文献】Sustainability criteria for biofuels specified (European Commission):Sustainability criteria for biofuels specified (europa.eu)

また,水素と同様に,国内でのエネルギサプライチェーンにも課題があり,そもそも生産量が十分ではないうえ,製造事業者数は59と現在の軽油需要を賄うには不十分です.サービスステーションも存在しないため,灯油やLPGのようなデリバリーがサプライチェーンとなると予見します.

【参考文献】バイオディーゼル燃料取組実態等調査結果の概要(2019年度実績)(全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会):https://www.jora.jp/wp-content/uploads/2021/06/bdf_2020cyousa.pdf.pdf

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