パワーソース選定の評価軸:オフロードモビリティ

動向

オフロードモビリティの燃料は,これまではいくつかの化石燃料が定番化していましたが,カーボンニュートラル社会の実現に向けて燃料およびパワーソースが脱炭素化されゆくなか,数多ある低GHG燃料の使用にはパワーソース選定の評価軸が必要になっています.本ページでは,パワーソース選定の評価軸を整理し説明します.

上図は,オフロードモビリティでのユーザーのプロセスと,各プロセスでのパワーソース選定の評価軸を示しています.プロセスは,ラフに車両の購買,車両へのエネルギ供給,車両の運転に大別しています.

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車両の購買プロセス

(1)-A:車両価格

車両の購買時には,ユーザーは車両価格を評価しますので,リチウム,コバルト,ニッケル,グラファイト,白金などレアメタルに依存する電動車両(xEV)は,これまでの車両と比較して低評価にならざるをえません.とりわけHDV(Heavy Duty Vehicle)では,ユーザーが必要とする連続作業時間を確保するために車両価格の1/3程度を占めるとされるバッテリが大型化し,車両価格が高額化する傾向にあります.一方で,カーボンフリーあるいはカーボンニュートラル燃料を使用する内燃機関車両:CF/CN-ICEVでは,軽油と比較した真発熱量の低さや燃料の燃焼特性に起因したディレーティングによって単位出力あたりの原価が高額化する傾向にあります.

【参考文献】EV普及のカギをにぎるレアメタル(資源エネルギー庁):EV普及のカギをにぎるレアメタル|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

【参考文献】xEVに必須のレアメタル「コバルト」の安定供給にオールジャパンで挑戦(資源エネルギ庁):xEVに必須のレアメタル「コバルト」の安定供給にオールジャパンで挑戦|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

(1)-B:炭素税など

趣味的な要素が低いオフロード車両では,脱炭素に資するとはいえ高額な車両では購買動機につながる見込みはありません.ここで検討されている施策が,炭素税や排出権取引などのカーボンプライシングです.環境省は,2021年夏頃に炭素税の素案をまとめ,年末には税制調査会での議論につなげていくようです.税率によりますが,ユーザーは,従来の化石燃料ICEVよりも高額化するであろうxEVやCF/CN-ICEVに乗り換えるか,炭素税を支払うか,二者択一が予見されます.カーボンプライシングを超えるほどのCF/CN車両の高額化は脱炭素化の抵抗なると考えられますが,購入補助制度の発出もありえますので,脱炭素化の制度設計が見えてくるまでは,次世代パワーソースの評価は難しそうです.

車両へのエネルギ供給プロセス

(1)-C:燃料価格

車両へのエネルギ供給の段では,燃料価格が評価されます.現在,軽油では130円/L程度,免税軽油では100円/L程度ですが,燃料が変わればその単価が異なるうえ,パワーソースのエネルギ効率で燃料価格が左右されます.例えば,我が国が利用を推進している水素に着眼すれば,経済産業省が示す水素基本戦略では,水素のサービスステーション小売価格は現在100円/Nm3程度,2030年頃に30円/Nm3程度,さらにその先には20円/Nm3程度と記述されていますが,現在の天然ガス輸入価格16円/Nm3並までの低価格化はまだまだ先の印象です.また,車両価格と同様に,燃料への炭素税課税の動きも気になります.

【参考文献】今後の水素政策の検討の進め方について(経済産業省):018_01_00.pdf (meti.go.jp)

(2)流通/調達性

現在は,国内におよそ30,000ヶ所あるサービスステーションや様々な小売店からユーザーは燃料を調達していますが,CF/CN燃料の調達先が遠方で入手困難となれば,その燃料を利用するパワーソースの選択はありえません.例えば,経済産業省は,水素ステーションを2020年での162ヶ所から2030年には900ヶ所程度まで増やそうとしていますが,乗用車両や貨物車両などのオンロードモビリティならまだしも,農耕地や様々な建設現場などで使用されるオフロードモビリティのユーザーが水素ステーションにアクセスするにはかなりの不便が想像されます.移動式水素供給も未成熟です.また,カーボンニュートラルが期待できるBDFは,市場流通が形成されているとは言えず,サービスステーションで一般消費者向けに販売されただけでマスコミが取り上げる状況です.e-fuelの流通/調達性も未発達で,機器に応じた燃料種が多様で,合成燃料が社会インフラに育つ目途はまだないようです.

【参考文献】日本経済新聞,ユーグレナ、バイオ燃料をガソリンスタンドで試験販売,(2021/03/22):https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ225NI0S1A320C2000000/

(3)充填時間

一般のセルフ式サービスステーションでの給油時間は4分以下のようです.有人式や大型トラック専用のサービスステーションではもう少し長いケースもあるようですが,液体燃料では数分が相場のようです.また,現在,水素ステーションでは従業員によって水素が充填されますが,トヨタMIRAIのケースでは充填時間は3分程度のようです.BEVでは,電力網さえあれば普通充電できますが,満充電まで数時間を要しています.急速充電では,日産リーフの例ですが,62kWhのバッテリを80%,すなわち49.6kWh充電するのに要する時間は60分とのことです.2021年4月時点で特筆すべきTESLAのスーパーチャージャーV3は250kWとのことですので,日産リーフの62kWhであれば単純計算で15分程度になります.最新の充電器での充電時間は燃料充填時間に迫りつつありますが,現在の最新以上の設備が一般化するまでは,BEVは低評価にならざるを得ない状況です.

【参考文献】消防危第12号 「顧客に自ら給油等をさせる給油取扱所に係る運用について」の一部改正について(総務省消防庁):https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/post1205/

【参考文献】日産リーフWEBページ:日産:リーフ [ LEAF ] | 航続距離・充電 | 航続距離・バッテリー (nissan.co.jp)

【参考文献】TESLAサポートページ:スーパーチャージャー | テスラジャパン (tesla.com)

車両の運転プロセス

(4)連続運転時間

エネルギが尽きるまでの距離あるいは時間が重要です.移動が機能であるオンロードモビリティでは航続距離で評価され,作業が機能であるオフロードモビリティでは運転時間で評価されます.これらは燃料タンクやバッテリなどのエネルギ貯蔵装置に依存しますが,移動途中にサービスステーションにアクセスできるオンロードモビリティでは上手な給油,すなわち運用での航続距離延長が可能ですが,エネルギ供給の機会がないオフロードモビリティでは,運用での運転時間延長が不可能です.エネルギ貯蔵装置の貯蔵容量は,製品のコンセプトに依存し一意に決まりませんが,常温,常圧で液体かつ真発熱量が比較的高い軽油の体積エネルギ密度10,000kWh/m3程度と比較すれば,多くの燃料の体積エネルギ密度は低く,同じ運転時間を確保しようとすれば,エネルギ貯蔵装置は大きくなってしまいます.とりわけBEVでは,現在装備されている液体電解質LiBの体積エネルギ密度は400kWh/m3程度で,電動機器のエネルギ効率0.9程度と内燃機関のエネルギ効率0.4程度を考慮しても,車両を大型化しない限り運転時間が犠牲になります.現在の液体電解質LiBと比較して3倍程度の体積エネルギ密度が期待されている全固体LiBでも,依然として軽油とオーダー違いの体積エネルギ密度であり,エネルギ回生の少なさやHDV(Heavy Duty Vehicle)であることを鑑みれば,オフロードモビリティでのBEV化は限定的かもしれません.

【参考文献】focus NEDO,No.69 (2018):100881592.pdf (nedo.go.jp)

(5)信頼/耐久性

信頼性および耐久性はユーザーが気になる評価軸ですが,一般に,機器のメーカーからは保証期間が示されるものの,いわゆる寿命は示されません.これは,機器の運転環境がユーザーで異なるうえ,運転環境を一意に定義しても製造上の偏差など機器の寿命を決定する因子は様々で,寿命予測の難しさが要因の一つになっています.また,定期メンテナンスや修理で寿命延命は可能ですので,そもそも寿命の定義自体が一意に決まりません.このように,パワーソースの信頼性および耐久性は,評価基準一定での客観評価が困難ですが,上記保証期間や部品の交換時期およびその費用から判断していくことになると考えられます.黎明期にあるFCVでは,トヨタのMIRAIを参考にすれば,燃料電池,駆動用モータ,バッテリの保証期間は,新車から5年間または走行距離10万kmで,ガソリンエンジンと同じとのことです.ただ,高圧水素タンクは,高圧ガス保安法により製造から15年での交換が必要ですので,MIRAIと同類のタンクを採用した車両では,装備する燃料タンクの交換費用を許容できなければ寿命≦15年となります.

【参考文献】トヨタ自動車FAQ:燃料電池・駆動用バッテリー・高圧水素タンク・モーターの保証期間を教えて。 | トヨタ お問い合わせ・よくあるご質問 (toyota.jp)

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