革新的イノベーション vs レトロフィット:BDF

技術

カーボンニュートラル社会を目指して様々な技術開発が進められていますが,決定打となりえる革新的な技術創出や既存システムの改良など様々なアプローチが考えられ,最適解は一意に定まりません.例えば,核融合発電が実現し,化石燃料に依存することなくいつでも必要なだけ電気が使えるようになれば,エネルギ問題は解決するかもしれません.あるいは,完全な再生可能エネルギでの発電と需給調整機能としての水素エネルギ基盤が整えば,エネルギ問題は解決するかもしれません.しかしながら,IEA(International Energy Agency)が報告しているWorld Energy Outlook 2020では,2040年の化石燃料の需要は,7244 Mtoe (全エネルギ需要の56%)から12467 Mtoe (全エネルギ需要の73%)と予測されており,核融合発電や完全再エネ発電などの革新的イノベーションの社会実装は比較的に遠いと言わざるをえません.

【参考文献】IEA,World Energy Outlook 2020.

一方で,従来技術に新技術を付加した新しい価値の創出,すなわちレトロフィットと呼ばれるアプローチが考えられています.例えば,従来からある化石燃料による火力発電にCCS(Carbon Capture and Storage)を加えるアプローチや,火力発電にカーボンフリーあるいはカーボンニュートラル燃料を用いる水素火力発電やバイオマス発電は,レトロフィット技術と呼んでも良いかもしれません.

また,モビリティでは,FCV(Fuel Cell Vehicle)を革新的イノベーションと定義すれば,水素やBDF(Bio-Diesel Fuel)を燃料とするICEV(Internal Combustion Engine Vehicle)はレトロフィットと定義できるかもしれません.とりわけ,BDFはディーゼルエンジンを使用できるため,リチウムイオンバッテリでは連続走行距離あるいは連続作業時間に不足が生じるHDV(Heavy Duty Vehicle)でのカーボンニュートラル化を実現できる可能性があります.本ページでは,これまで利用されてきた内燃機関を脱炭素社会に変化/適合させるレトロフィット技術としてのBDFの動向を説明します.

【参考文献】岡田正史,バイオディーゼル燃料の製造方法と利用の現状,日本マリンエンジニアリング学会誌,Vol.47,No.1 (2012).

BDFは,植物油を原資とする合成燃料で,例えば,国土交通省による高濃度BDF使用による車両不具合等防止のためのガイドラインや日本建設業連合会による建設業におけるBDF利用ガイドラインが発行されるなど,一定の社会実装が実現しています.しかしながら,自治体やNPO法人が中心にBDF燃料の使用を進めているものの,軽油需要3397.7万kL(2019年)に対してBDFの生産量は1.4万kL(2019年)であり,BDFの市場流通は未成熟で,HDVのユーザーの入手性が課題になっています.

また,現在のBDFの主流であるFAME(Fatty Acid Methyl Ester)は,酸化による長期保存の課題や,B100燃料(BDF:軽油=100:0)でのディーゼルエンジンの信頼性の課題などがありますが,HVO(Hydrotreated Vegetable Oil)をはじめとする次世代BDFはFAMEよりも軽油に近い性状で,これらの課題を解決することができると言われています.なお,HVOの生産量は,オランダ101.3万kL(2014年),イタリア46.2万kL(2014年),フィンランド43.0万kL(2014年),スペイン37.7万kL(2014年)と,日本のFAMEと比較して桁違いに大量生産されており,カーボンニュートラルのレトロフィットアプローチとして比較的に現実的かもしれません.

【参考文献】高濃度バイオディーゼル燃料等の使用による車両不具合等防止のためのガイドライン(国土交通省):https://www.mlit.go.jp/common/000032568.pdf

【参考文献】:建設業におけるバイオディーゼル燃料利用ガイドライン(日本建設業連合会):https://www.nikkenren.com/publication/pdf/305/20190401_rev.3.0.pdf

【参考文献】令和1年 資源・エネルギー統計年報(資源エネルギー庁):A9Rfl5l4l_1qleayu_634.tmp (meti.go.jp)

【参考文献】バイオディーゼル燃料取組実態等調査結果の概要 2019年度実績(全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会):https://www.jora.jp/wp-content/uploads/2021/06/bdf_2020cyousa.pdf.pdf

【参考文献】バイオディーゼル(国立環境研究所):バイオディーゼル – 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア (nies.go.jp)

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